第6回 温故知新 郷土史研究
唐川 明史さん(72歳)
年寄りが一人亡くなれば図書館が一つ無くなると言われるんですよ。
昔は爺ちゃん、婆ちゃんが、家の事、地域の事を孫に語ると三世代で100年、その孫が年寄りになって自分の孫に語るとまた100年、計200年間は伝承できたのです。
現代は学校を卒業すると家を出て帰らない子どもが多いので20年間しか繋がらない世の中となって、郷土の歴史が一年一年と失われていく危機に焦っているんですよ。と語る唐川さんです。
きっかけ
時折メディアに登場する唐川さんは中島町を中心に能登の歴史や風俗など幅広い知識を元に様々な活動を行なっています。日本考古学協会に所属し、地元では中島ささゆり短歌会と中島町植物の会の会長を務め、朱鷺棲む里山釶内クラブを主宰しています。
郷土の歴史に詳しい唐川さんですが子供の頃から知らず知らずに興味を抱いたと言います。それもそのはず父親が「加能民族の会」に所属し民俗学を中心に地域の歴史を書いており、家では寝ころがって手を伸ばせば父の書物に手が触れる環境だったとのこと。
そして鹿北商工会に勤務し地域の皆さんと世代を超えてふれあう中で様々な事を知り、疑問に思ったことは図書館で調べ、そんな積み重ねで造詣が深まったと言います。
歴史研究
歴史研究の方法は文献史学と考古学があり、文献史学は書類に書いたものを読み解いて歴史を解釈していきます。考古学は事物を対象にして、いつ頃のものか、材質は何か、何に使われていたか、どのように使っていたかを調べていきます。歴史上の書類には偽物もあり、たとえば紙に墨で書かれた文献が見た目ではその時代の内容に合致していても、そこに考古学でアプローチし紙と墨を分析するとその時代と文章の内容が合わないことがあります。
このことからも歴史は塗り替えられていくことがあると思われます。また民俗学では気候風土の違いで風俗や生活様式などが異なりますが、同じ土地でも時代の移り変わりの中でそれらも変化していくことが分かります。
さしずめ現代なら車がモデルチェンジしていくとか、流行のヘアースタイルが変化していくような感じです。
このような様々なアプローチで歴史が補完されていき、長い年月の積み重ねで今日の段階でこんなことが分かった。ということが歴史研究であり終わりはないと話します。
伝え残す大切さ
唐川さんは経験から活字で残す、写真で残す、絵で残すことが大切だと言います。
人間は生きた事実があっても、記録を残さず死ぬということは、生きた証を残せないと考えるからです。少子高齢化が進みどの在所も連帯感が薄れ、共助の力が弱まり、歴史を語り継げない現実をどうしていけば良いのか…。
結論は伝統の「祭り」にヒントがある。人が少なくなっても「祭り」は実施した方が良い。神輿や枠旗が出せないなら代わりうるものを考える。
たとえば高さ1.8mの赤い旗を各家が持ち出し鉦太鼓を鳴らし参列する。日常に感謝し、神と人が一体となり、心を合わせることの出来る最後の砦が「祭り」だと言います。失われつつある故郷の歴史を少しでも後世に残したいと活動を続ける唐川さん。
今、中島町の各地区を訪れ、集落内の通称名、家の屋号、門徒寺の聞き取り調査を進め、またお年寄りからは人生の経験、知識を伝承してもらうべく話を聞き出して記録している。
唐川さんの活動は失われる歴史を留めるだけでなく、お年寄りにとっても生きた証を確認し、人生を振り返る貴重な時間となっている。 「生きてきて良かった」と。