第207回 田鶴浜七原
在所名の由来
在所では「しつわら」と呼んでいるよ。
赤蔵山系と眉丈山系の狭間の小さい盆地で、そこを流れる吉田川を挟んで拓いた田んぼが唯一の平地なんだけど、七つもの野原があるようなところではないので、なんで七原となったか正直わからないんだよ。
昔の在所
人里離れた山間に田畑で暮らしを立ててきた在所でね。私が子どもの頃は田んぼも土水路でドジョウやタニシがいたし、吉田川にはきれいな水が流れヤマメやナマズ、コイにフナ、ゴリなど沢山いたよ。
タニシはゆでておやつ代わりに食べていたくらいだけど、ここのタニシは先端が白いのが特徴なんだ。昔この辺りに十劫坊というお寺があって、たくさんの坊舎が建ち並んでいたことからか、在所では僧の生霊と言い伝えられているよ。
私の苗字は家の前が採石場だったから大石で、屋号は「ほこさ」と言うけど、長尾景虎の六人衆の一人で鉾持ちだったからだと伝わっているんだ。志賀町方面からの敵を防ぐのにここに家を構えたと聞いているよ。六人衆の系図ははっきりしていて、今でも事があれば吉田の長尾家を中心に集まるんだよ。
現在の在所
この時期、吉田川から田んぼ、山の麓にかけて沢山のホタルが飛ぶけど幻想的でとてもきれいだよ。
近年、水もきれいで自然が豊かだからと移住して自然農法を営む若い人もいてくれてね。こちらはもう在所の人として迎えて色々と交流しながら助け合っているんだ。
小さな在所ゆえみんな素朴で人が良く、草刈りも、苗植えも収穫もみんなで手伝って、毎週土曜日にはどこかの家にみんな集まって一杯やっているよ(笑)。八世帯しかないのに川の草刈りには十五人も出てくるんだ。在所の外に住んでいても七原に畑をしている人たちが草刈機を持って集まってくれてね。
若い仲間も増え昨年は二十一年ぶりに秋祭りに旗を立てたし、今年は神輿を出そうと話しているんだ。なんと五十年以上ぶりだよ。何をやるにしても協力しなければならないし、在所中ラインでつないでもうみんな親戚づきあいなんだ。
最終的には人と人のつながりが一番大切だと思うんだよ。いがみ合うより、助け合って、美味しいもの食べて、楽しく過ごす。そういう環境を子や孫の代にも残していけたらと願っているんだ。
あきこの一言
絆を大切にして、自然を満喫。
思いやりのある暮らし、素敵な在所。