こみみかわら版バックナンバー

第79回私の仕事は「せり人」です


相場を決める緊張

私の仕事は「せり人」です
中島 大(なかしま まさる)53歳
仕事歴 32年

せり人の仕事とは

私の場合、地元の漁師さんが毎日、毎日、早朝から海に出て網を揚げ獲った魚介を、
鮮魚店やスーパーを通じて皆さんの食卓に届け、漁師さんも、魚屋さんも、食べる皆さんも、
みんなが幸せになるための仲立ちが、せり人の仕事だと思っています。

真剣勝負

このやろー、ふざけんな 俺の方が先やろっと胸ぐらをつかまれたことも、
顔を叩かれたこともありました。今は懐かしい昔の話ですけどね(笑)。
 
最近はここまで殺気立つことはないですが、それでもここは荷主の漁師も、
買い付けて販売する鮮魚店も生活をかけた真剣勝負の場なのです。
 
鮮魚はいち早く消費者に届けなければなりません。
その日の天候、漁獲、需要、仲卸業者と小売業者の様々な思惑の中で駆け引きがなされ
価格が決まっていきます。
同じ価格を提示した場合は、早く提示した人に決まりますが、
若い頃それを見落とし怒鳴られたのです。少しでも高く売りたい漁師、少しでも安くしたい買い人、
そしてせり人は入荷した魚を売り切らなければなりません。
キロ売りするか、山売りするか。魚の種類や入荷状況、
買い人の動きや表情まで観察し状況を見極めます。
 
スタートの値を決め、気合で一声を飛ばします。
買い人の声が飛び交い、数字が指で示されます。提示された数字を瞬時に読み取り、
最終値を決め、買い受け人を決定します。
せり人として高値で売れた時は内心嬉しいですが、移動せりなので次々とせりをテンポよく進めなければ
ならず気が抜けません。
 
公正な取引、真剣勝負の場ではありますが、漁師も買い人も同じ顔ぶれです。
あらゆる状況を勘案し双方が納得するバランス感覚もせり人に必要なセンスだと思っています。

せり人への道

七尾商業高校を卒業し銀行員として3年間勤めましたが営業が向かず悩んでいました。
昭和60年11月この七尾公設市場が開設されたのを機に思い切って21歳の時、転職しました。
 
最初は先輩の横に立ち、せりの結果を帳面に付けながら魚の名前を覚え、
この魚はこんな人たちが欲しがるんだ、この魚はこんな値のつき方をするんだと、
せり人としての知識と感性を学びました。
 
鮮魚は各漁港から次々とトラックで市場に運ばれ小さなカゴに仕分けされます。
全体の漁獲状況はそれぞれの船上から電話で入ってきますので、その情報を確認しておきます。
買い人はカゴに入った鮮魚を真剣な眼差しで下見しています。
 
朝5時半、カゴの前に立ち、「売るよー 」と大きく発声すると買い人が集まってきます。
おはようございますと帽子を脱いで挨拶をし、せりがスタートします。
 
この瞬間は今でも毎日緊張します。

相場は魚の種類、サイズ、鮮度が同じでも、日によって行って来るほど違いますし、
私のせりも気持ちが乗ってテンポ良く進むこともあれば、
タイミングが合わずリズムに乗れない日もあります。
そんな日は親方や先輩から「なんや、あのせり方は 」と未だに怒られます(笑)。
昔は2人、3人のせり人が同時に進めていましたが、漁獲量も減ってきて最近は一人の時もあります。
能登で獲れる美味しい魚を地元の皆さんにお届けするため、
これからも七尾魚市場の一線に立ち続けていく覚悟です。





七尾魚市場株式会社☎53‐7710