こみみかわら版バックナンバー

第80回私の仕事は「豆腐職人」です。

単純、ゆえに奥深き



私の仕事は「豆腐職人」です。
茶谷 浩之(ちゃたにひろゆき)さん(55歳)
仕事歴 33年


豆腐職人の仕事とは


基本的には大豆を水でふやかし、挽いて、煮て、搾って豆乳とおからに分け、にがりを打って、型箱に寄せ、切った豆腐をパッケージする作業です。私はその全ての工程に妥協することなく、お客様が一口食べた時「おっ」と思ってもらえる豆腐を作るため日々考え続けています。


職人魂


国産大豆でもピンキリあり、にがりも種類が沢山あります。季節によって大豆を水につける時間、煮る時間も調整します。それらの微妙な違いで豆乳の濃さが変り、豆腐の味が変ります。こだわるとキリがありませんし、やればやるほど壁にぶつかります。お客様も十人十色で、味なのか、食感なのか求めるものも様々です。旨い豆腐とは味、食感、色、匂い全てを追い求める必要があると思っています。お客様は自分の好みの細かな所には敏感に反応します。店に買いに来てくれる常連さんは忌憚の無い評価をしてくれます。今日これは良かったと思える豆腐が出来て、翌日同じようにやっても、同じものが出来ない。答えが無いと言うか1+1=2とはならないのです。さらにお客様の美味しいには数字がないのです。豆腐作りは手を抜けば単純な作業になります。それであれば私は辞めていたと思います。単純だからこそ出来栄えに奥深さを感じるのです。いつももっと旨いものがあるのではないかと思っています。材料を取り替えて味を変えることは簡単です。そうではなく同じ材料を使って極めていく。その日の気温や湿度などで、豆の挽き加減、ほんの微々たる水の量や、煮る温度や時間を調整し、そのデータを毎日記録します。出来た豆腐の味を確認し、もっと美味しくするために何をどうすれば良いか仮説を立て探求します。微細な加減から無限の味が生じます。その中から自分が納得できる味を見つけだす。ゴールは無いのかもしれませんが、それが職人ではないでしょうか。これは刃物職人が刃先に触れ五感を研ぎ澄まし切れ味を求めていく姿と相通じると思います。



毎回記録を


五代目


私で五代目です。強い思い入れはなく母がリウマチで出来なくなったので手伝いを始めたのがキッカケでした。豆腐は木綿、焼き、絹ごしと種類が増えて来ました。昔は木の型箱に木綿を敷いて蓋をして重石を載せ型箱の穴から豆腐の水分を出して木綿豆腐を作りました。それを串に刺して焼いたものが焼き豆腐です。最近はバーナーで焦げをつけます。ステンレスの型箱が出てきてからつるつるした絹ごし豆腐が出来るようになりました。七尾名物、夏場の茶碗豆腐は卵が高級品だった時代に、卵を模して中に黄色いからしを入れたという説もあります。豆腐は主役ではなく脇役です。肉や魚の添え物なんですね。それでもバリエーションを広げ食卓に出番を増やそうと豆腐職人が知恵を絞ってきたのだと思います。一口食べた時、「おっ」と思ってもらえる豆腐を目指していますが、料理屋で出された茶やの豆腐が美味しかったと言ってわざわざお店に買いにきて頂いた時などはとても嬉しく思います。家内と二人三脚で30年以上経ちましたが、自分達の求める味に賛同していただけるお客様がいることが何よりの励みになっています。二人で賄っている店なので数に限りがありますが、今はどんたくの新鮮館、ベイモール店、タント店でお求め頂けます。



手作りの逸品



妻、菜穂美と共に


2017年取材


松本町 茶や豆腐店☎52‐1499