第84回「人形劇役者」です。
娯楽が必要な社会
私の仕事は「人形劇役者」です。
吉田 貴志(よしだ たかし)45歳
仕事歴21年
人形劇役者とは
私の場合は、自分で作った人形と道具を持って北陸の保育園を回り、園児が大きな声で笑い、何かを感じて、子どもの頃の楽しい思い出の一つになるようにと、ひとり人形劇を演じています。
本堂に笑いの渦が
夏休みに小竹の瑤泉寺に中能登町の五つの保育園の年長さん116名が集まって私の人形劇を観て頂きました。園児たちの大きな笑い声や突っ込みに私もテンションが上がり手ごたえを感じたステージとなりました。瑤泉寺の佛教婦人会が企画をして近所の方や園児の親御さん、保育士さんなど老若男女が集まり皆で仏様にお参りをし、人形劇を楽しんで頂きました。私は普段通りに演じたのですが場の空気がいつもと違うと感じました。それは園児が情操教育としてではなく、地域の人と一緒に単純に娯楽として楽しんで観ることが出来たからだと思います。無邪気で屈託の無い大きな笑い声が本堂に響きます。劇が終り大人たちからこんな子どもの笑い声を聞いたのは久しぶりだ、昔を思い出した、懐かしいと口々に感想を頂きました。
唯一のプロ
金沢大学で子供と遊ぶサークルに入り人形劇に出会うのですが、一瞬にしてのめり込んでしまいました。プロの世界があることを知り、迷わず京都の人形劇団京芸に入団しました。そこでは主に2人~8人の班を作り各地で公演を行います。14年間在籍し人形の扱い、声の出し方、場の読み方、笑いのつぼ、舞台美術など人形劇の技術とコツを身につけ、6年前にひとりで「ヨシダ人形劇」を故郷石川で旗揚げしました。北陸では福井県の「人形劇団とんと」が先駆者として頑張っています。私も県内で唯一のプロとして石川県で人形劇をもっともっと広めたいと思っています。大きな劇団は役者と営業が別れて運営されますが、私は根っからの役者肌で営業は得意ではなく、ご縁のあった方々の口コミで少しずつ広がっている状況です。
みんなで一緒に
ひとり人形劇
舞台道具、人形、全て手作りのオリジナルです。人形と掛け合う短編の物語を組み合わせて構成します。園児は自分より小さくて愚かな人形を上から目線で見て、物語を先読みし、突っ込んだり、教えたり、時には人形をジーッと見つめて共感し、見ている者全員が一体となり仲間意識を共有していく様が感じられます。私の狙い通りに運ぶこともあれば、思っても見ないところで反応を示され、子供の感性に教えられる事もあります。年齢や知識や経験の差によって笑うところも違ってきますが、私は子供向けに作っているという意識は無く、誰が見ても、ただ楽しむものであり、ただの娯楽でありたいと思っています。路地に子供が遊んでいた時代、在所の中で子供の笑い声や、泣き声が聞こえることが当たり前でした。その当たり前が当たり前でなくなった現代、地域の中で大人と子供が一緒になって大きな声で笑える娯楽、子供の笑い声で大人が元気を貰える娯楽として、たった一人のヨシダ人形劇がお役に立てればと願いながらも、気負わずに、淡々と活動していきたいと思っています。
お世話して頂いた瑤泉寺仏教婦人会
中能登町高畠 ヨシダ劇場
☎050-3444-9396
2017年取材