こみみかわら版バックナンバー

第107回 私の仕事は『オーナーシェフ』です。


料理で表現する能登の自然

仕事歴10年 平田 明珠さん 34歳

地元食材にこだわる

もうズタボロでした。一年間はマイナス意識になり本当に辛かったです。
何とかなると思って二〇十六年九月にオープンしたのですが甘かったです。
地元のお客様は牛肉やフォアグラなどの普段食べられないイタリアンを求めて来店されるのですが、
私は地元食材にこだわっていたので、そのギャップが生じてしまったのです。

それでも恵まれていたのは移住者がお店を開くということで多くのメディアに取材された事と、
二〇一七年のRED U‐35(三十五歳以下の全国料理人コンペティション)でベスト二十二人に
入選したことがキッカケで全国からもお客様が来て下さるようになりました。
ただオープン時には自分の思う料理がまだ未完だったのです。

移住のキッカケ

私は東京出身です。
明治大学を卒業して会社勤めをしていたのですが、組織で働く事がしっくりこなく辞めました。
大泉学園の小さなお店で修業を始めイタリア生活の長い女性シェフから基礎をみっちり教わりました。
そのお店は流行のものでなくイタリアの田舎料理を得意としており、食材も自家菜園で栽培し
生ハムなど加工品も自家製でした。厳しいシェフで聞く前にまず自分で調べるよう指導を受けました。
今思うとそれが良かったんです。

二軒目に入ったお店で転機が訪れました。全国の生産者回りをするお店だったのでその時に能登を訪れ、
七尾では宮本水産、高農園、鹿渡島定置、蛸漁の平山さんなどとお会いしました。
東京での開業を思っていたのですが、そんなご縁もあって地方に魅力を感じたのです。

色々な地域で色々なお店がありますが、私が影響を受けた二人のシェフがいます。
和歌山県で農業をやりながら料理を作る。その人にしか出せない世界感、オリジナルに憧れました。
自分だけの何種類もの野菜パウダーが絵具のパレットのようでした。
それは東京では出来ない料理のスタイルでした。
もう一人は淡路島で地域に溶け込んで生産者と小学校で食育を行い、地域で楽しそうに
暮しているシェフです。魚の内臓の料理もそこでしか食べられないものです。
そんな地方の料理人の生き様が魅力的で、私も土地の食材を使って地方でお店を出したいと
移住を決意したのです。



非日常の価値

三十歳で自店は早すぎると思いましたが、人生で一番濃い三年半でした。
今ようやく自分の確立した信念、世界感が見えて来たと思います。
オープン時は地域貢献として地域食材の活用を目標にしていましたが、今は自分の世界を
求めていくプロセスに地域食材があり、地域食材へのアプローチが自分の道になってきました。
全国で地方レストランが注目されていますが、美味しいだけでなく、地元の食材、土地の文化、
料理人の個性などトータルで磨かれていかないとなりません。
山に入り、畑に入り、仕入れの中で見る景色や感じた事を料理に変換し、三十人以上いる
地元生産者の方々と能登の里山里海の恵みに感謝して、一緒になって自然豊かな能登を
表現することが私たちの目指す料理の形です。

オープンした時は地元と県外のお客様に対してどちらにも中途半端だったと反省しています。
今は自分の表現したい料理を研ぎ澄ませ、非日常の価値を提供して、時間をかけても
全国に向けてお客様を作っていくと決めています。
方向が決まった事で徐々に県外からのお客様が多くなり、地元の方でも地域の魅力が再発見できる
と楽しみに来て下さる方も増えてきました。自分の世界感を完成させるため努力を続けます。



白馬町 ヴィラ・デラ・パーチェ
☎0767-58-3001