第108回 私の仕事は『消防司令官』です。
火の用心!
仕事歴30年 池上 弥寿広さん 59歳
憧れの消防士
消防車で道路を走っていると子供がよく手を振ってくれます。
私はそれに対して敬礼で答えます。すると子供たちは満面の笑みで喜んでくれます。
消防の仕事は人を助ける事、火事を防ぐこと、火を消す事です。
そのために日々の訓練のほか、事業所への立ち入り検査、学校や保育所での避難訓練なども行います。
そのため出来るだけ地域に飛び込んで、地域の人と交わることが大切だと思っています。
中学生の時、七尾駅前のオリオンで見た映画タワーリング・インフェルノ。
大ファンだったスティーブ・マックイーン演じる消防士が百三十八階の超高層ビルの火災を
屋上の貯水タンクを爆破させ大惨事を防ぐもので、この時に「消防士かっこいい!」と憧れました。
表裏一体
七尾鹿島広域圏での火災はかつて年間四十件ほどありましたが、ここ数年は十数件で推移しています。
昔はいろり、かまど、練炭、薪風呂、ろうそく、マッチなど火が身近な存在でしたが、
今は電気が普及し火を使う機会が少なくなったことや、地元消防団と自警団の方々と密に連携し、
防火活動に取り組んできたからだと思います。
一方、高齢化社会となり事故や災害などで老人の犠牲者が増えている現実もあります。
防火訓練では、家庭でクリスマスや誕生日のケーキを食べる時、ろうそくの火を見つめて、
この火のお蔭で豊かな暮らしがあり、またこの火で命を落とすこともあるから、火を考える機会にして、
みんなで火の大切さと怖さを理解してから、おいしいケーキを食べて下さい、と話をしています。
心に刻む言葉
中能登消防所では一隊八名のチームが三隊あり、二十四時間体制で救急と防火を担います。
設備や道具の進化に伴い、私たちの技術も知識も進化しないとなりません。
ホースも六五ミリから五十ミリと細くなり軽くなったおかげで機動性が増しました。
また今は水を放水するのではなく水に空気を混ぜて泡状として放水します。これで水の量が半分に減りました。
水の確保がとても重要で日頃から消火栓や防火水槽の点検、川の水量など水利の確認をしています。
利用できる水源が一つより二つ、二つより三つと多いほど消火戦術が有利になります。
火事に「大したことのない火事などない」ボヤであっても大丈夫などないのです。
現場に出動するたびに心に刻んでいる言葉で、私のモットーとしています。
同志
二十四時間体制で勤務し、共に訓練する同僚はある意味、家族以上の絆で結ばれています。
そしていざ火災現場に出動したら、司令として私の一声で危険にさらすこともあり、隊員の命を預かります。
現場では各隊員の意見を集約し、勘と経験とデータから方針の決断は私がして、すべての責任を負います。
そして絶対に殉職させてはならないと思っています。
現場では心無いヤジが聞こえる事もありますが、そんな時も動ぜず消火に集中する隊員の顔を見ます。
仲間の頼もしい顔をみると、落ち着き、勇気、元気が湧きます。
どんな立派な設備や機械があっても、最後は人だと強く実感します。
鎮火して住民から消防さんのお蔭で助かったわ!ありがとう!の一言を頂いた時、体と心の疲れが全部吹っ飛びます。
私は来年定年を迎えますが、退職後の事を考えてフェードアウトするのではなく、まだ一年もあると思って、
若い人に負けないで全身全霊で任務を果たし、最後の最後まで上り調子のままでゴールを切りたいと思っています。
中能登消防署
☎0767-76-0119